仕上げ前の要「研ぎ」

一般に、「研ぎ」と言われてイメージすることは、切れなくなった包丁や刀を砥石でこすって切れ味を復活させて鋭くよく切れるようにすることだと思います。

もしくは、お米も研ぐ、かもしれませんね。この場合は磨くと書いて「磨ぐ」(とぐ)と書くこともあります。

弊社で「研ぎ」というと、砥石で砥ぐ作業と炭で研ぐ炭研ぎ(すみとぎ)のことを指します。「研ぎ」は品物を作る上で欠かせない大事な行程です。

リングプレートを例にご紹介します。リングプレートとは写真左の銀カップの台の部分の、台座をぐるっと囲んでいる銀の部分のことを言い、持ち回りのトロフィーなどに使われ、大会の歴代優勝者などを刻んでゆくことが一般的です。


リングプレートのトロフィー
通常プレートの銀カップ

通常のプレートは右の銀カップの台の部分に打ち付けてある長方形の銀の板です。トロフィーのレプリカとしてその大会の優勝者や日付を刻み、優勝者に渡すときなどに用いられます。

社内では短く「リング」と呼んでいます。職人さんによっては「台巻き」と呼んだりします。普通シルバーで「リング」と言ったら指輪のことを指すんですけどね。

話が逸れてしまいましたが、弊社の銀製品、特に銀器(トロフィーやカップ、湯沸かし、タンブラーなど)は「絞り」「挽き」という行程を経て形になります。
(※絞り挽き物はこちらでご紹介しております。)
リングプレートも同様に作られます。
砥ぎの風景1
一見すると綺麗な平面に見えますが、手作業による物なので実際は凹凸があります。この凸凹をムラを呼びます。

このまま鏡面に仕上げて光らせてしまうとムラが目立ってしまい歪んだ鏡のようになり綺麗に見えなくなってしまいます。そこで大事なのが研ぎという作業になってきます。

まずは平らな砥石を使い軽く研ぎ、ムラや傷があるかどうかを調べます。
砥ぎの風景2
すると写真の用に砥石が当たっている所と当たっていない所が斑模様の様に浮かびあがってきます。これがムラです。このムラを消すために色々な方向から砥石を当てます。このとき手首をしっかり決めふらつかないように気を付けます。
通常のプレートのように平らな板を研ぐ場合は、ムラをなくす過程で、砥石も平らになってゆきます。この砥石が丸くなるようでは手首がふらついている証拠です。
そのような点に気を付けながら砥石が全体に当たるようになるまで研ぎます。
砥ぎの風景3
砥ぎの風景4
その後、この砥石の目をさらに細かくしてバフ研磨しやすくするために炭を当てていきます。冒頭でご紹介した炭研ぎです。

弊社では駿河(するが)炭と朴(ほお)炭という2種類の炭を使い分けています。
駿河(するが)炭と朴(ほお)炭
駿河炭は貴重なので、基本的には朴炭を使いますが、金などの品物を作る時は磨きで目方が落ち過ぎないように朴炭よりも非常に目が細かい駿河炭で更に研ぎます。時間もかかる大変な作業ですがこれをやるかやらないかで品物の出来が変わってきます。バフなどで研磨した後の鏡面が、ムラのない美しいものとなります。

朴炭(参考価格:2020年現在1kg当たり8,000円くらい)
朴炭

貴重な駿河炭(参考価格:2020年現在1kg当たり25,000円くらい)
駿河炭
目が非常に細かい。

また炭には木目があるので、木目に逆らって研ぐようにすることで品物にスジが入りにくくなります。木目を縦にすると銀の細かい粉などが木目につまり、そのまま気付かずに研いでしまうことで逆に品物を傷つけてしまうことがあるからです。

この研ぎの工程はあまり人目に触れることのない工程ですが、このひと手間をかけることで銀製品を仕上げたときに歪みのない綺麗な鏡のようになり、息を飲むような美しさにつながってゆきます。
ちなみに研ぎをし過ぎると指の皮が捲れてきて最後は肉が裂けてすご~く痛いです。職人への通り道です(笑)