挽き物加工とは

今回は「挽き物加工」をご紹介します。
挽き物加工は、以前ご紹介した絞り加工の続きの工程です。
※「挽く」は金へんの「鋔」の字を用いることもあります。

挽き物加工風景
挽き物作業風景
(協力:高倉製作所様)

挽き物加工をものすごく簡単に説明してしまうと、絞り加工した品物の表面を削ることです。

表面を削る理由はいくつかございますが、主な理由に、表面を滑らかにすることが挙げられます。
へら絞りで絞った品物はには実は細かい段差があります。指でさっと撫でたくらいではわかりませんが、例えばそのまま鏡面磨きで研磨すると、その段差の部分がゆがんで見えてしまいます。
そのため、その段差を取り除き、表面を滑らかにするためにバイトと呼ばれる道具で削ります。
また、表面には絞り加工のときになました際の酸化被膜などもあり、そもそもそのまま研磨すること自体が大変で、挽くことで研磨しやすくもなります。

品物によっては内側も挽きます。


銀器の場合はバイトをあてた後、さらに砥石や炭をあて、一手間加えます。

そうすることによって研磨後の銀製品がより一層美しくなります。

特に銀製品では、他にも削る理由がございます。「シムラ」の除去です。
銀器の場合、純銀では柔らかすぎるため銅を混ぜた素材(970や950)などで強度を確保する場合が多いです。銀の品位についてはこちら
強度が上がるメリットがありますが、反面、銅が混ざっている地金には、「シムラ」と呼ばれるシミのような少しくすんだ部分が表面に出てくることがあります。
紫色っぽいので、「紫ムラ」や、火を当てることで表面に生じることから「火ムラ」、それが江戸っ子訛りで「しムラ」になったなど、諸説ございます。
シムラを残したまま研磨すると、その部分だけくすんで見えてしうので、挽き物加工で除去します。次の研磨の工程で除去する場合も多々あります。
シムラ・火ムラ・紫むら
(鏡面に仕上げるとシムラの部分がくすんでしまう)


絞り加工はただの円形の板を、器の形にダイナミックに変形させますし、研磨は白くてザラザラした品物を表面を鏡のようにピカピカに磨きあげる工程なので、
両工程とも見た目に劇的な変化がありますが、挽き物加工はそこまで見た目に大きな変化が現れず、あまりクローズアップされない世界ですが、銀器は材料の貴重さからほとんどが1mm未満の厚さでできており、削り過ぎればすぐ穴があいてしまうような繊細な技術が必要な職人の世界であり、挽き物加工がなければ銀器を美しく仕上げることができない、大変重要な工程なのです。
現在、挽き物職人さんが減少しているのが実情です。跡継ぎ不足が原因です。
せめて挽き物という言葉だけでも広まってくれたらと願います。