純銀はとても柔らかい
銀製品を作る際、純銀があまり好んで使われないのは、
純銀は柔らかく傷つきやすいためです。
そこで割金(わりがね)と呼ばれる別の金属(主に銅)を混ぜ、
硬さなどの性質を調整します。
1000分の30混ぜたものを970
1000分の50混ぜたものを950
1000分の75混ぜたものを925と呼びます。
一般に925はスターリングシルバーと呼ばれ、アクセサリーに
よく使用されます。硬く傷つきにくいというのがその理由の一つです。
ちなみに純銀は業界では「サラ」と呼んでいます。
イントネーションは「皿」ではなく「コラ!」です。
純金は「ヤキ」、イントネーションは「滝」ではなく「秋」です。
話が逸れていまいましたが、今回はそんな銀の品位ごとの
硬さを比べる実験をしました。
まずは品位の異なる地金を用意します。
本当は正確に同じ大きさが良かったのですが、
最近銀の値段が高いので、なんとか端材で揃えました(汗)
次に硬さを均一にするために金槌で叩いてしめます。
叩くことで硬化します。「しめる」と言います。
次に半分だけ焼きなまします。焼きなますことで柔らかくなります。
比較するには同じ力を加えなくてはならず、
どうしようか悶々と考えた末、重りを同じ高さから落とすことにしました。約826gの鉄の塊を
約15cmくらいから落とします。地金は金敷の下に挟んであります。
重りを落として地金の曲がり具合を比較。
曲がった地金の横から比較。純銀は大きく曲がっています。
しめた970としめた925が理論的には逆になるはずですが、
形の違いや、挟み具合、当たりどころなどで均一な力を
加えることができなかったのかぁと思います。
気になったのはしめたサラとなました925が同じくらいだという点
でしたので、その二つだけもう一度実験してみました。
二度目もやはり同じくらいの曲がり具合になりました。
叩いて硬化させた純銀が焼きなまして柔らかくした925と
同じくらいの硬さだということですね。
手で触った感じではなました925の方が柔らかく感じましたが、
純銀がいかに柔らかいかが伝わったかと思います。
もう一つおまけの実験。
東洋経済新報社出版・山本勇三 編著『貴金属の実際知識』という
40年ほど前に出版された本があり、
その中にずっとずっと気になっている内容があります。
銀(特に925)には「持効性」又は「時効硬化性」という性質があり、
要約すると、
一度なました地金を、200~300℃の比較的低温に再加熱することで
再硬化するというものです。
通常、焼きなました金属は金槌で叩いたり、ローラーで圧延したりするなど、加工することで硬化します。
弊社で製作している猫マドラーなどは、マドラーとしての硬度が
欲しいため、ロウ付けを用いず、一枚の板から製作しています。
ロウ材などの不純物を含ませないためという理由もありますが、
もしロウ付けをしたらその熱でなまってしまうので、
棒の部分を金槌で叩いてしめなくてはならず、
叩けば表面も凸凹になるため平らに整形しなければなりません。
もしも、加工せずに硬化させる夢のような方法があるとするなら
モノづくりの幅がぐっと広がります。
ますは3種類の925の地金を用意。
先と同じように3つを叩いてしめ、その内2つをなまし、
そこから更に1つだけ再加熱しました。
そして同じように重りを落として曲がり具合を比較しました。
結果は微妙でした。
手で触った感じではなんとなぁ~く硬くなったかなという感じでした。
ただ、200~300℃という加減がわからず、勘で温めたので、
もっときちんと正確な実験をすれば結果が得られるかもしれません。
新型コロナウィルスの影響を受ける中小零細企業の我々、
実験はめちゃくちゃ楽しいですがあんまり生産性に直結しない
ことをしていると純銀のようにあっという間に凹んでしまうので、
今日はこの辺でご勘弁ください~。