銀と伝統工芸

銀製品といえばアンティーク、ヴィンテージなど、
洋食器やティーポットのように、西洋のイメージが強いですが、
実は伝統工芸として日本にも「東京銀器」があります。

残念ながら「銀=伝統工芸」というイメージはほとんどないと思います。

今回は伝統工芸としての銀製品の魅力をお伝えし、
強い西洋のイメージを壊していけたらと思います。

~歴史~

江戸時代中期に、彫金師の彫刻する器物の生地の作り手として、
銀師(しろがねし)と呼ばれる銀器職人や、櫛、かんざし、
神興(みこし)金具等を作る金工師と呼ばれる飾り職人が
登場したことが「東京銀器」の始まりと言われています。

現在でも鏨(タガネ)を使って文様を彫る彫金、
鎚で打ち出す鍛金と呼ばれる技術が伝統工芸として伝えられています。

「彫金」は上記でも記したようにタガネを使って文様を彫る技術の事です。
様々なタガネを彫刻刀のように使って文字や模様を彫っていきます。
タガネを打ち出す角度や打つ強さで線の強弱を出していく技術は
まさに伝統工芸と言えるでしょう。
アクセサリーから銀器製作まで広く使われ皆さんの
目に届く事も多い技術だと思います。

「鍛金」は木鎚、金槌を使って金属板から品物を作り出す技術です。
鎚起(ついき)とも呼ばれます。
最初は木台の凹部の上で木鎚を使い板状の金属を叩い曲げていきます。
その後作る品物に合わせた当金(あてがね)と呼ばれる道具に
当てて金槌で叩き徐々に形にしていきます。
一つの品物になるまでには何万回も叩く事になり、
大きな品物になると何週間も叩き続ける事もあります。
気の遠くなるような作業とともに作品は出来上がります。

そもそも金属加工技術は弥生時代初期、紀元前200年頃に
金属とともにもたらされましたと言われています。
中国大陸・朝鮮半島から伝わった金工技術により剣や銅鐸、
装身具などが作られ青銅や鉄が材料に使われていました。

古墳時代には馬具や甲冑を製作するようになり、
青銅器の剣や鏡などに装飾がされ奈良〜平安時代には
仏教の伝来に伴より仏像の鋳造技術が発達し飾り金具などに
彫金技術が施されるようになりました。

鍋や釜などの日用品や農耕具などに鉄が使われるようになり、
鎌倉〜安土桃山時代になると金属工芸の量産化が進み
金工技術もさらに進歩しました
武家社会においては武器や刀剣類への装飾が好まれるようになりました。

日本に銀が登場するのは意外に古く、元明天皇の和銅元年(708年)に
近江の国で銀銭の鋳造が行われていたとされています。
翌年和銅2年には3文以下は銅銭、4文以上は銀銭を用いよと
勅命がくだされました。

徳川の時代には銀座で丁銀や豆銀が鋳造されました。

17~19世紀末までは日本からポルトガル人によって大量の銀が
ヨーロッパに流出しました。

現存するアンティークティーポットなども、元をたどれば
日本産出の銀で作られているかもしれないと思うと感慨深いですね。

~そもそも~

伝統工芸とは、長い歴史の中で受け継がれている伝統的な技術や技が用いられた美術や工芸のことを言います。

「伝統的工芸品産業の振興に関する法律」では
下記5項目が規定されております。

1.主に日常生活で使われるもの。
2.全て手作りでなくても製造過程の主要部分が手作りのもの。
3.100年以上継承、改良された伝統的技術や技法により製造されたもの。
4.自然の原材料が重たる原材料として使われ100年以上厳選、
吟味されてきたもの。
5.一定の地域の産地である程度の製造者がある素材・原料で、
その地域の生活の中で作られたもの。

簡単にまとめると日常生活で使われる品物で、
継承されてきた高度な技術により人工的な材料でないもので製造され、
過程のほとんどが手作業でおこなわれており、
長く受け継がれてきたものということですね。

単純に昔から受け継がれてきたというだけでは
伝統工芸として認められないということをご存じの方は少なく、
ほとんどの方が規定があることすら知らなかったのではないかと思います。

国が指定する伝統工芸品にはマークを付けることができます。
これは伝統工芸品じゃないの?と思える品物でも、
調べてみると指定を受けていない品物もあり、また逆もあります。
気になるものがあれば調べてみると面白いかもしれませんね。

もう1つ気になるところでは、
100年以上の伝統が継承されていることを証明することは
難しいのでは?ということです。
職人の人数が少なかったり文献等などが残っていないと
継承していくことも困難で受け継がれることができず、
せっかくの伝統的技術が失われていく残念な結果となります。
後継者不足も深刻だと思います。

ところで、
伝統工芸と言えば=職人というイメージですが、
資格などが必要なのか気になり調べてみました。
伝統工芸の職人には、車の免許のような持ってなきゃ作っちゃいけない
ようなタイプの資格はありませんが、
最近では実務経験を12年以上積み原則的に産地内に
居住しており、現在もその工芸品を作るための作業に従事し
高度な技術を身に着けた職人は国家資格の『伝統工芸士』の試験を
受験することが可能だそうです。
中には実務経験20年以上というケースもあるようです。気が遠くなりますね。

~弊社の場合~

弊社はバブル期にゴルフなどのスポーツイベントが現在よりも
遥かに隆盛だった頃からトロフィーや銀カップなどをメインに
作ってきておりますが、
それ以外に同時に銀食器や和茶器などの製作も手掛けております。

トロフィーなどの表彰関連の製品は主にスピードを要求されます。
(※大会の優勝者が直前までわからないためなどetc)

一方和茶器などは使い勝手はもちろん、工芸品としての見た目の
美しさなどを求められます。
純銀製湯沸かし・波紋
底打ちや鳥口など銀カップではあまり使うことのない道具を
何種類も使い分け、ときには何時間もかけそれ専用の道具を
作り、製品を作っていきます。
このような技術を受け継ぐ人が減ってゆく中、
1つでも多くの技を後世に残してゆければと思います。