メッキの基本知識

メッキは実は外来語ではなく、生粋の日本語で、漢字で書くと
「鍍金」となりますが、鍍が常用漢字ではないので、
JIS規格ではひらがなで『めっき』と表記します。
ここでは読みやすいようにカタカナでメッキと書きます。

弊社は金属加工業なのでメッキとはとても縁があります。
会話の中でメッキという言葉が出ない日は一日もないと言っても
過言ではありません。

もっとも最近ではプラスチックや紙など金属以外のものにも
メッキをかけることができるようなので、金属加工業に限らず
なのかもしれません。

弊社で一番多いパターンは真鍮製のトロフィーの製造で、
真鍮そのものは黄色です。そこにロジウムメッキをかけることで
写真のように銀色になります。
ロジウムメッキ
金メッキ
カップの内側は金メッキを施してあります。

また、銀製品に銀メッキをかけることがあります。

銀に銀???

と思うかもしれません。
そもそもメッキとは素材に薄い金属膜をつける技術です。
銀製品に銀の薄い膜を張るにはどんな意味があるのでしょうか。

銀製品と一言で言っても、純銀は非常に柔らかいので、
割り物をした銀(925%、950%、970%等)の品物が主流です。

割り物をした銀には銅が含まれており、見た目は白く均一に
見えますが実際は酸化銅が深く浸透した部分と浅い部分に別れています。
これを磨いていくと酸化銅が深く浸透している部分が
うっすら黒く浮き出てきてしまいます。
これを火ムラ(またはシムラ)といいます。
火ムラ(シムラ)
この火ムラを隠すため銀メッキを施し、全体に薄く銀の膜を張ることで
火ムラを隠し、品物を綺麗に仕上げます。

ですので、割り金の入っていない純銀製品に銀メッキをかけることは
ほとんどありません。キズを付きにくくする意味で付けることも
ありますが、純銀のもつ雰囲気を消してしまいかねないので
弊社の純銀製湯沸かしなどはメッキをかけません。
純銀製湯沸かし、たてすじ

さて、今少しだけ触れましたが、メッキには品物を綺麗に見せるだけでなく、キズ付きにくくするなどの機能面での意味もあります。

例えば、素材(鉄など)を腐食(サビ)から守り寿命を延ばしたり、
電気の通らないものに電気を通せるようにしたり、
素材を元の状態より扱いやすくしたり(金メッキなどは
アレルギーを起こしづらいと言われています)、
フライパンの熱伝導率を上げたり、
ザルなどの調理用品に水をはじく機能を付けたりできます。
弊社の銀製ねこキーリングなどは
銀製ねこキーリング
もともと硬い925を使用しておりますが更にキズを付けにくくするために
ロジウムメッキを施してあります。
機能面についてはこちらのサイトに詳しく掲載されており、面白いです。


ところで、メッキはどのようにかけるのでしょうか?
色々な方法がありますが、主流(?なのかはちょっとハテナ)なのは
金属の溶けた液体、金メッキをしたいなら金が溶けた液体、
銀メッキなら銀が溶けた液体(たいてい体に良くない、
といか毒、というか劇薬)の中にメッキをしたい素材を浸け、
電気を流すというものです。

電気を流すことで液体中の金属が素材へと
吸着(電着?うまい表現がわからない)します。

昔は水銀に金などを溶かし、素材に塗り、その後水銀を蒸発させる
という手法を取っていたそうで、塗金などと呼ばれていました。
そして当時のメッキは剥がれやすく、「正体がバレる」とい意味の、
「メッキが剥がれる」という言葉が生まれたとされています。

これは自分個人的な感想なのですが、メッキという言葉には何となく
マイナスのイメージがあるような気がしています。
それはこの「メッキが剥がれる」から、「本性をメッキで隠す」みたいな
ニュアンスが生まれ、悪いものを隠すためのものとしてのイメージが
定着してしまったのではないかと思います。

が、しかし!現代の電気によるメッキは簡単には剥がれません。
ペンキのようにポロっとなんて落ちません。
道具でゴリゴリ削らないと落ちませんし、大変な作業です。
電気の力で剥離することもできますが、素材の表面が荒れてしまいます。

メッキを剥がすことは大変なんです。
ちなみに以前の記事でもご紹介しましたが、メッキは表面の
傷などを覆い隠してくれず、表面の傷や凹凸の通りにメッキが乗ります。
よくあるメッキの間違ったイメージ
都合の悪いものは隠せないのです。

昔の塗金では出来たのかもしれませんが・・・

というわけで、「メッキが剥がれる」という言葉はあまり現在にはそぐわないのかもしれません。
メッキの恩恵は調理器具からパソコンやスマートフォンなど、
生活のあらゆるところで受けています。

メッキを付けること自体も実は奥が深く、
金属の溶けた液体の種類によって
メッキがうまく乗る温度などがあり、湯気が出るほど温めたりと、
色々気を使わないと均一で綺麗なメッキが乗りません。
メッキも職人の勘と経験による技の賜物です。
「メッキ」にもっとプラスのイメージが浸透するといいなぁと思います。


ちなみに、メッキには相性があり、真鍮カップにロジウムメッキを
するとき、間にニッケルなどをメッキします。

メッキの難しい金属もあります。

チタンの色について調べてみました。
本来の色は黒っぽい色ですが磨くとプラチナのような色になります。
チタンのアクセサリーなどよくみかけますが、
そのような色をしていますね。

綺麗な銀色ではないので、くすんだようなあの黒い色を見ると
なんだか心配になってしまいますが純チタンの色は黒っぽい色が
本来の色だそうです。

チタンには酸化被膜で覆われることで金属アレルギーが
生じにくい性質があります。

チタンは錆びにくく非常に優れた酸化皮膜を形成するため
メッキ難素材と言われているそうです。
酸処理により酸化皮膜を除去しても空気中や水中の酸素に触れることで
一瞬にして酸化皮膜を形成してしまうです。

しかし現在、
各社の研究開発によりチタンにメッキをすることが可能となっています。

やはり電気を使います。
発色させたいチタン製品を陽極に、
通電性の良い金属を陰極にして導電性の水溶液に浸し電圧をかけます。

水が電気分解され陰極からは水素、陽極からは酸素が発生し、
この発生した酸素とチタンが結びつき表面に酸化チタンの膜を形成します。

チタンの酸化被膜は本来無色透明ですが酸化被膜を透過した光と
反射光による干渉作用によりさまざまな彩色を得る事が可能で、
陽極酸化処理と言い、電圧と浸漬時間をコントロールすること
で、
酸化被膜の厚さをコントロールしチタン表面を目的の色に着色すします。
原理的には可視光に含まれる色であれば
どんな色でも発色させることは可能だそうです。

このように被膜を生成させる表面処理のことをアルマイトと言い、
通常の金メッキや銀メッキ異なり、チタンはとても優れた加工方法
で発色された金属ということが分かります。

このように、メッキは研究者の賜物でもあります。
日々当たり前のように使っているものは
様々な人の努力で成り立っているということに
感謝しながら生活できたらいいですね。